家賃請求されたブルース

「工藤さんお暇のある時にいらしてください 家主」
 帰宅するとポストに紙切れがあった。大家からだ。最近よく絡むなぁ。
9時を回り夜も遅かったのだが、僕が住むアパートと同じ敷地にある大家邸のインターホンを押した。数分程待たされもう部屋に戻ろうとした時、ようやっと妖怪・大家があらわれた。
「……工藤さん……気を悪くしないで……下さいね? 先月分の……家賃……払いましたか?」
90歳を越えているのか、大家の喋り方は文字にするとこんな風なのである。年寄りだからってバカにするわけではない。ただ、先日大家の妹に伝えたことが伝わっていないのだ。先月の家賃は支払い済みで領収にハンコも押されているのだが、まだ未払いでないかと疑われているのだ。大家曰くなにやら自分の管理用帳面にハンコがないと。大家よ、自分が忘れてたんじゃないか。
僕はニコニコしながら、
「大家さんがぁ! 領収にはぁ! ハンコをぉ! 押してましたよぅ!」
 でかい声で言わなきゃ伝わらないので、ゆっくり叫ぶ。ところが大家はきょとーんとしているので、
「領収ぅ! よかったら持ってきましょうか!?」
証拠をみせてやろうじゃないか。すると大家はこう言った。
「工藤さん……家賃が……気を悪くしないで下さいね……。領収……見せて下さい……」
だから持ってきましょうかっつってんじゃんか!部屋に領収取りに行って戻ってピンポン押してまた数分たって、ようやく大家が現れた。領収を見せると、
「少〜し……待って下さい……」


で、待つ。


待つのだ。


待つのだ、ヒロポよ。


 やっと、来た、来た。


「確かに……いただいてました……ね……。ココにハンコがないもんで……」
大家はルーぺ片手に、帳面を僕に見せてくれた。


すごい!
こまかっ!


あまりの細かさに、いささか驚きが隠せなかった。こんなん、ルーぺで見るならもっと大きく書きゃいいのに。
 部屋の奥から、息子の嫁らしき女性が出てきて、
「ごめんなさいね〜、年寄りだから〜」
 なんて言ってるのを無視して大家は言った。
「来月からね……家賃……3万3千円から……3万円にしますから……よろしくお願いしますね……」
ブルースのように。なんだ、ブルースって。