帰省1日目〜2日目「青春18切符で九州入り」

昨夜、東京駅からムーンライトながらに乗り込んだ。18切符の旅には欠かせない電車だ。こいつに乗っちまえば、朝には東海道を越え、滋賀県に着く。


おや。車内放送が「本日の指定席は満席です。」と言っている。たまたま、今回、指定席券を買ってみた。いつもは通路などで寝るのだが、みどりの窓口のおっさんから、「あと一枚です。」と言われ、なんだこいつ、誰が信じるかナメやがって。と思いつつも、貧乏人の妙なプライドで買ってしまったのだ。しかし、買ってよかった。
座った席は最低だったけれど。


ヒロポの隣の通路にやってきたのは、おばさん二人組。みんな寝てんのに、ヒソヒソ、クチャクチャおしゃべりに余念がない。トイレに行けば、静岡からずっと鼻垂れのおっさんが入って出てこないとのこと。静岡ってもう一時間前...。ヒロポはトイレの戸をノックしまくった。返事はある。生きてはいるようだ。同じくトイレに列を作る青年が「長いですね。」と話しかけてきた。でっかくて流れないんじゃないですか?ヒロポは、そう答えるとトイレに行くのを諦めた。席に戻ると、迷惑おばさんは、まだ、わぁわぁきゃあきゃあ盛り上がっている。ヒロポも何度か話しかけられた。あまりにもひどいし、イライラするので、みんな寝てるから迷惑になりますよ、と注意したらしゅんとおとなしくなった。ヒヒ。愚か者め。


眠れないので、ムック『中島らも』を読む。今、中島らもにこれまでにないほどハマっている。既読未読の作品を読みあさっている。作品は面白いもの、面白くないものいろいろだが、今やらもマニアなのでなんでも読む。ヒロポは昔から、いつか、らもさんに会いに行こうと決めていた。けれど、この本に掲載されている、親交のあった人たちの追悼文を読んでいると、今やそれは叶わぬ夢になったのだと悲しい気持ちになった。


非常に浅い眠りの中で、短い夢を見た。
ヒロポはムーンライトながらに乗っている。友達に、大分に帰るから遊ぼうね、とメールを送った。ほどなくして、メールが返ってきた。悪い冗談で、
「途中で事故って、これなければいいのにねp=笑)」
というものだった。ヒロポはこれを読んで嫌な気持ちになった。「p=」という、よくわからない記号が不気味に思えた。


目が覚めると、名古屋だった。窓から、美しい春の朝焼けを見た。あんな夢を見たけれど、きっと楽しい事がたくさんある旅になると、希望を持つ事にした。二人組のおばさんたちは名古屋で降りていった。車掌が注意していたので、きっとトイレも使えるようになっただろう。おじさんは車掌の紺色のズボンをはいてブツブツ言いながら自分のズボンを手にしていた。やがて岐阜に到着し、急に雪深くなってきた。山陽本線に乗り換える頃には、白銀の世界が広がっていた。


京都では、先程のおてんとさんがだいぶのぼっていた。大阪に着く頃には、本が変わり、中島らも『砂をつかんで立ち上がれ』に変わっていた。向かいあって座る四人掛けの座席に、にこやかな父、母、娘が入ってきた。丁寧な芦屋の言葉だったが、葬式に行くのだろう、喪服であった。ヒロポも、こんなふうに、なりたいな。そう思った。人の死を受け入れきれずに、いつまでも、あぁすればよかった、こうしておけばよかったと、うじうじ考えるより、にこにこしていた方が亡くなった人もうれしいのではないか。少なくともヒロポが死んだら、みんなに速攻で爆笑してほしい。本を読みながらそんなことを考えた。



日が暮れて、岡山から広島に入る頃には、3冊目『酒気帯び車椅子』に移っていた。幸せだったサラリーマンが、ふとしたきっかけでヤクザに娘を拉致され、奥さんを強姦され、自分は足をハンマーで砕かれる。あまりの出来事に、復讐を誓う。出来上がったのは、コンピュータ内蔵の、エンジン付き車椅子だ。マシンガンやバズーカもついている。タイトル通り、めちゃくちゃな話だ。エンターテインメント小説でザグザグ読める。美しい瞬間と、恐ろしい瞬間のベクトルが極端に開きまくっており、興奮した。
戦車のような車椅子に乗ってハラハラドキドキしているうちに、終点、中津に着いた。今夜はこの大分県の最北端の街に住む親戚のうちに厄介になるのだ。実に、22時間の移動だった。尻も痛い。地鶏を頂きながら、伯父といも焼酎をグイグイ飲んで、いとこや伯母と語りながら爆笑し合った。ヒロポは夜中までねばったが、布団に入った瞬間に、眠ってしまった。


名古屋で撮影した朝日を見ると、誰がこれを朝日だと証明するのか、ふと疑問に思った。もしかしたら、本当は、沈み行く夕日かもしれないじゃないか。一日が終りゆき、闇が訪れる時。
いずれにしても、ヒロポはどっちでもいいや、と思う。月並みな意見だが、「日はまたのぼり繰り返す」からだ。
旅の始まりの今日、ヒロポはこんなだったよ。きみはどうだった?