ベロ出しチョンマ

「できた〜!!」
5年生男子が、ヒロポ先生に叫んだ。図書館でそんなに叫ぶなよ!と思いつつ、
「何が出来たの?」
業務日報を書いていたヒロポ先生は、手を止め、彼がホワイトボードに描いた何かを確認しに行った。
…うわッ!


アッカンベー


をしている、少年の絵が描かれていた。
凄まじい気力を感じさせる作品である。美術教員免許も持っているヒロポ先生は、こういう、児童が制作した、何気無い作品が堪らない。ジュル。
とりあえず、彼の作品の持つ、その凄まじい気力を賞賛した。
すると、彼はヒロポ先生に自分がいかに辛い状況にあるのか話し始めた。
週3回、四時半から九時まで塾通い。内一回は土曜。日曜は野球チーム。ゲームが好きだけど、忙しくて友達とはできない。水曜だけ暇だが、母親から「たまには寝なさい。」と言われる。
大変だね、11歳。


しかし、何で「アッカンベー」なの?


「だって、さっきへんな絵があったから!」


彼はヒロポ先生が、3年生の国語科『モチモチの木』に併せて作った掲示物を見て、ラクガキの着想を得たようだ。


『モチモチの木』の作者は斉藤隆介である。画家、滝平二郎と組み、多くの作品を残している。ヒロポ先生は、3年生が国語で『モチモチの木』の単元に入ったと聞き、斉藤隆介作品を彼らに紹介しようと準備を進めていた。そのひとつが、『ベロ出しチョンマ』人形の写真である。そう、「あっかんべー」をしている人形なのだ。
「元気出しなよ。」なんて言ったって、きっとダメなんだ。そんなときは、素敵なお話を教えてあげるのがきっといい。


えー、オホン。
知らない人のために、最後に『ベロ出しチョンマ』のあらすじを教えるね。もしも気に入ったら、短い話だからさ、公共図書館の児童室や、本屋さん、あるかわかんないけどブックオフとかで立ち読みしてみるのもいいと思う。


長松は、貧乏な村の男の子。小さな妹がいるんだ。たぶん、萌えないような子だけど、かわいいと思うな。妹は泣き虫だから、長松はいっつも、「アンチャンのツラァ見ろ!」って、眉を下げて、ベロ出してさ、変な顔すんだよね。妹は泣くのなんて忘れて、笑うんだ。
この年、村は不作だったの。村の会合で大人たちが「いっき」や「ちょうそ」とか話してる。でも、どれも辛い罰を受けなきゃならん、てな事を話してるのを聞いたんだ。長松に難しくてよく分かんなかったけれど。
しばらくして、長松のお父さん、いなくなっちゃった。お殿様のとこに直訴しに行ったんだ。そして、長松も、お母さんも、もちろんお父さんも捕まった。はりつけにされて、槍でお父さんもお母さんも刺された。それを見た妹は叫び泣いたんだ。
さて、長松は、刺される瞬間、なにしたと思う?大体分かるでしょ?ヒロポには到底出来ないけどね。そ、
「アンチャンのツラァ見ろー!」
って、ベロ出して、眉を下げて、変な顔したんだ。死んじゃうのにさ。妹も、村の人も、その顔見ておもいっきり笑ったよ。
おもいっきり、泣きながらね。


おちまい



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