6年生を送る会

ヒロポは小学校の図書館で働いているんだけどさ、3月だからもうすぐ6年生とお別れしなきゃならない。だから、さみしい気持ちで毎日過ごしてる。
図書委員長はメガネでヒョロくて、あだ名が「マッチ棒」なんだけど、だからって怒ったりしないし、ヒロポと仲良しなんだ。いいやつなんだ。しっかりものでさ。彼、中学受験したんだ。何校か受けてさ、全部受かってやがんだ。担任の先生曰く、目指せ、東大!って感じらしいよ。でさ、そいつだけじゃなくって、下級生もみんな、今日の6年生を送る会では立派だったよ。先生たちもすごいよ。毎日遅くまで準備してさ。意味不明の動物みたいなのを引き連れて、あんなに美しい歌声で合唱させるなんて。


ヒロポもね、中学校までは成績良かったなー。どんなに勉強しなくても、授業を良く聞いてたから、テストなんか楽勝だった。通知表もね、数学だけ4で、あと全部5だったことあったし、生活態度も大変良好。なんだそんなやつホントにいるのか、と今では思う。凄いよなぁ。


でもね、忘れたい過去なんだけど、実はね、一回だけカンニングしたことがある。音楽の筆記テストで。なんだよな、音楽の筆記って。中3くらいだったと思う。風邪ひいてたからさ、勉強出来なかった。手口は、ティッシュに教科書丸写ししてさ。テスト書き終ったら鼻かんでポイって棄てちゃった。そのあと、なんとも嫌な気分でさ。鼻水と一緒に、ゴミ箱に棄てた筈の罪悪感が「ゴーン」と喉元のあたりに引っ掛かってんだ。きっと、ティッシュにたっぷり染み込んでたんだな。罪が。


ある日の帰り道、友達と、
「お前ら、カンニングしたことあるん?」
て話しになった。
みんな、「俺あるよ。」「実は俺も。」みたいに、告白を始めた。

だけど、ヒロポはなまじっか成績良いっていう優等生のプライドがあったから、「俺は、そんなことしたことない。」そう答えたんだ。


嘘ついたわけだ。


音楽の筆記テストの答えなんてさ、卓上ライトだけの薄暗い部屋で机に向かってカンニングペーパー作るときに、全部頭ん中に記憶されてたんだ。あんなもん、夜中の3時に、家の便所に流しちゃえばよかったんだ。
それより何より、友達に、嘘なんか、つくんじゃなかった。
ニシダくんたち、ごめんな。ホントは表情や声で分かってたろ?かっこつけてさ、馬鹿だったわ、ヒロポ。


美術部だったヒロポは、受験があるってのに、勉強しなくなって絵を描きまくった。その頃、抽象画なんて言葉、知らなかったけど、そういう作品だった。その辺に落ちてた板に、色のつくものなんでもぶちまけて、ジャンパー燃やして釘で打ちつけ、台所からくすねた包丁を真ん中に突き立てた。本格的に頭がおかしくなったのはあの頃からだったかもしれない。だから、高校に入ってからテストは全くダメだった。四六時中、筋肉少女帯の事とエウ゛ァンゲリオンのことばかり考えてた。


今では、小学生と本に囲まれて笑って過ごしてるんだから、笑っちゃうよな。ライブでちんこ出したなんて知れたら、クビだろうな。



子どもたちの頭の上に、天使が踊ってるのを感じるよ。たぶん、昔、ヒロポの頭の上にもいたからだと思う。残酷な天使が。
ほとばしる熱いパトス。


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