■『そらをとぶ』

ポケットモンスターブラック&ホワイト発売に寄せて。


新宿駅のホームから落とされたんです。誰かが後ろから押したんです。塾から帰る途中でした。怖かった」

「振り返ると知らないおじさんがゲラゲラ笑いながら僕を指差していました。女の人が叫び声をあげました。それから電車がすぐにやってきて急ブレーキをかけました。怖かったです」


「僕は誕生日に買ってもらったDSをギュッと握って、目をつぶりました。お母さんの顔が浮かんで、時間が止まったみたいにゆっくり僕は落ちて行きました。なんだかおかしいな、電車になかなかぶつからないなと思って目をあけると、僕はグイーン、と、空を飛んでいました」

「お母さんは僕がポケモンやってると怒るけど、電車にひかれそうになったとき助けてくれたのはトゲチックでした。お母さんが『ちょっとこれなんか首が長くて気持ち悪いわ』と言ったポケモンに僕は『そらをとぶ』を覚えさせていたのでした」



ヒロポくん、どこに行きたい?




トゲチックが僕に話しかけてきましたが僕は驚きませんでした。僕はトゲチックをどのポケモンよりも大切にしていたので、とてもなついていたのです。トゲチックエスパーひこうタイプのポケモンなので僕の脳に直接語りかけているのでした。僕は電車にひかれそうになったのがとても怖かったのでトゲチックに「家に帰りたい」と言いました。でもトゲチックは、

もう おうちには かえれない

と言いました。
だったら僕は、マサラタウンに行きたいと思いました。まだなんにもない、1番最初の真っ白な町まで。

どんどん飛んでいくと、僕の家の方でお母さんが泣いているのが見えました。僕はそっちの方をずっと見ていました。僕は予約してあった『ポケットモンスターホワイト』をお母さんと一緒に西友に取りに行かなきゃと思いました。けれど僕の家はどんどん遠くなっていきました。お母さん、どうして泣いているんですか。今日はポケモンの発売日なのに。どうしてそんなに悲しんでいるんですか。お母さんの姿が見えなくなると、トゲチックは僕を背中に乗せたままにっこり笑って、


さぁ、ぼうけんのはじまりだ


と言いました。





おしまい