元日に道で倒れてる人がいた。その時僕はふわふわの布団を持っていて。という話。

2019年元日、我が家に巣食う病魔退治の為に出かけた先は初詣ではなく大型コインランドリー。
年末に持ち込んだ様々なウィルス、細菌、汗、皮脂、その他よくわからないものを祓いたまえー!! とばかりにお清め(洗濯と乾燥)するのだ。
彼と出会ったのはその道中。
新年早々、住宅街で人が倒れていた。
通行人がいぶかしげに見下しながら素通りしている。死んでいるかもしれないのに冷たいもんだ。
 
しかしそれもわかる。
近年迷う事であるが、倒れている人に声をかけるか、かけないか。
声をかけたが最後、狂人と化した倒れ人にブスリとやられるかもしれない時代だ。
しかしヒロポは思った。
「元日から死体を見られるかもしれん」
すぐ隣にあるローソン。
主に酒を買うために良く使う店である。
そのすぐ側で死体を見つけるなんて今後ローソンに行くたびに嫌な気分になってよいではないか。
そう思って声をかけた。
 
「大丈夫ですかー?」
 
動かない。やはり死んでるのか。
 
「おーい、今、2019年になって14時34分経過したとこですよー」
 
動かない……。
 
「明けましておめでとうござい……」
 
ますなのか? ませんなのか?
この状況、めでたくはないだろう。
すると、「あっ、うう」とかなんか言いながら、その人はゆっくりと起き上がった。
 
 
30歳くらいだろうか、長髪だが小綺麗なお兄さんである。
きっと渋谷でカウントダウンやったあとルービー飲みながら引っ掛けたナオンとクスセッでもした挙句ここに倒れていたんだろう。生きててよかったね。セックスのこと誰もクスセッて言わないよね。
 
ヒロポは聞いた。
「大丈夫ですか? どこに帰るんですか? タクシー呼びましょうか」
 
 
 
「ここ…どこ…」
 
 
 
テメェ質問を質問で返しやがって! 寝ぼけた頭に「あの世だよぉぉーーッ! ヒャーッ!」っつってションベン漏らさせてやろうか!
 
とよぎったが、ボツにし、「あっちが渋谷、あっちが吉祥寺、あっちが皇居であっちが北海道です。で、ここがローソン」とボケてなごまそうか、いやいや絶対ウケないよ? とセルフツッコミを入れたその時!
 
ローソンの店員が出てきて「大丈夫ですか、タクシー呼びますね」というではないか。それヒロポが先に聞いたやつ!
 
「タクシー…お願いします」と倒れ人。
いいとこ持って行ったよなローソンも。タクシー呼ぶの面倒だからいいけどよ。あんちゃんよ、そのセリフ、ヒロポに言うべき回答だったんじゃねーの?
 
「あっち…家、あっちだと思う…」
人間というものは優しい人には支離滅裂に甘える生き物である。
このお兄さん、ヒロポにはとことん甘える準備を開始している。その証拠に、さっきまで倒れてた道端にまた寝ようとしてる。なんなの? 高い木から降りられなくなった子ネコをやっとの思いで降ろした次の瞬間また高い木に駆け上ったあの子ネコなの?
 
「ここ危ないし汚いし。タクシー止まりやすくて風がないところ行きましょう?」
 
捨て置けば良いものをヒロポはお兄さんを安全で快適な道端に移動させたのだった。
 
「腰イテェ…」
 
知るかよ、そりゃそうなるよ。いつから寝てたんだよ。
ヒロポはお兄さんの「腰イテェ」を受けつつ
「大丈夫ですか? 用事があるのでこれで失礼しますけど、今年一年良い年にしましょうね!」と言ってみた。
お兄さんはうなずきながら「タクシー、いつくるんですかね…」とのさばっていた。知らぬ存ぜぬ判りかねる! ローソン、あとは頼んだぜ!
 
それからまぁ用事というのは他でもない、コインランドリーに詣でて病魔退散と今年一年の健康を祈願して、1時間半くらい経ったのかな、ローソンの前を通ったら、なんとこのクソ寒いのに、さっきのお兄さんまだ道端にうずくまっていた。
今度こそ死んでるかもしれないな。とワクワクしながら「大丈夫ですか?」と声をかけた。
 
動いた。ピクピクしてる。
 
「さっきも声かけたものですけど、タクシーまだ待ってるんですか?(そんなわけない)」
 
……ピクッ……。
 
まだ生きてる。
そうだ、ヒロポの手には、まだ乾燥機の暖かみが残るふっわふわの布団がある。
人生で数える程もない「倒れた人と、布団を持った人が偶然道で出会う」状況。
ヒロポは布団をかけてやるべきなのか? 神がこの数奇な出会いを仕組んだというのか? しかしそんな事をすればこの人はずっとここで眠り続けてしまうだろう。世界の貧困課題を解決するメソッドにもある。アフリカに農作物の種を渡したところでその種を食べてしまうというではないか。本当の優しさとは、己の姿をさらけ出し、迷える者達へ道を示すことなのではないか?
 
すっごくいい事思ったな〜と満足しつつ、家で布団カバーつけて初夢どんなのかなーってふわふわ寝た。
しかし、今頃になって心配で怖くなって日記に書いてる。
あのお兄さん、いよいよ死んだかもしれんな。
それとも
まだタクシー待ってたりして。
 
 
現場近くの倒れそうな塀。ここに案内すればよかった。