人間だもの(嫌いな言葉)

「人間」という考えが発明されて、実はまだ何百年しかたっていない。
では「人間」が発明されるまで、ヒトは自分の事をなんだと思っていたのか。
なーんとも思っちゃいなかったんだろうね。
だって「自分」という考えすらなかったのだから。


ヒロポはある日を境に、「僕」を手に入れた。
まだ幼児のヒロポは、父母祖父母から「ひろゆきちゃん」と呼ばれていた。
親戚一同、近所の人だってみんなヒロポの事を「ひろゆきちゃん」と呼んでいた。
ただ、妹(女子ちゃんではない方です。女子ちゃんはまだ生まれていない)はヒロポを「おにいちゃん」と呼んでいたし、周りの人達も、
ひろゆきちゃんはおにいちゃんなんなんだよ。」
と言っていたので、ヒロポは自分の事を、あぁ、そうか、おにいちゃんなんだ。と思っていた。


ところがある日、ヒロポの母が、
ひろゆきちゃん、男の子は自分の事を僕っていうのよ。」
と、教えてくれた。
正直、まったく理解出来なかったので、母に対して、なんでヒロポはひろゆきちゃんなのに僕っち言わんといけんの?と聞いた。
「いつまでもひろゆきちゃんって言ってたら恥ずかしいやろ。」
途端に、ヒロポは、これまで自分の事を「ひろゆきちゃん」と呼んでいたのが恥ずかしくなった。
かなり苦労したが、すぐに、ヒロポは自主的に自分の事を「僕」と呼ぶ訓練を始め、ようやく「僕」と呼ぶことに成功した。
はじめは、周りの人のほぼ全員がヒロポのことを「ひろゆきちゃん」と呼んでいたので、かなり苦労したよ。
けれど、家族にその事を話すと、母と父はヒロポの事を、「ひろ」と呼ぶようになったし、祖父は「寛之」と呼ぶようになり、祖母は「にいちゃん」もしくは「寛之君」と呼ぶようになった。
おかげで、幼児ヒロポは「僕」を手に入れることができた。


あれから20年たったが、「僕」は「俺」だったり「ヒロポ」だったりしている。
今は、無事に産まれて育ってきた妹の女子ちゃんを矯正しているところだ。
実は最近「おにいたん」と呼ばせている。
オタクの兄を持つ妹はこういうハメになるので気を付けようという話でした。



妹がとても嫌がって「おにいたん」って呼んでくれません。