カシミールナポレオン10周年@天神VOODOOラウンジ(その2)

 前回のあらすじ


 ツアー先でバイナリキッドは突然ラジオに出た後いろいろあって迷子になった。さて。




 すっげー道を行きすぎていた僕たちは協力しあってVOODOOラウンジに着いた。
 それにしても、会場前で浮浪者がギャルと歌ってるのにはまいった。今にして思えば、天神の街を象徴するような出来事だった。とにかくハッピーなんだ。ここは。弱いも強いもあんまりない。


 会場は名前の通り、マジでラウンジだった。
 酒を飲み、料理を楽しむ場所にステージがあるような。でも本格的なライブが出来る。
 リハを終えた僕たちバイナリキッドはぐったりしていた。疲れた。頭痛い。もういやや。うちら楽器できんけん新メンバーとやってんのに。無理や。Uと“ぐ”とヘイコックが懐かしい。大分、ぜんぜん乗らなかった。客も自分も。ライブとか怖いわ。
 しかし、イベントは始まるのだった。


 「ぼんくら峠」はドラムとボーカルのふたり組で、里に降りて来た野人が村の祭りで叫び踊るような狂熱の演奏だった。


 次は円盤で知り合った「INNJAPAN」の番だ。楽しみにしていたけど、想像以上にすさまじく楽しいライブだった。矢沢永吉のライブ音源を流しながらお客さんとティッシュを投げたりして、かなり感動した。笑いすぎて、頭痛いのがすっかり良くなった。
 感動のあまり、僕はメンバーで一番かっこいい、しゃんぺ〜に「すごくよかった!」と抱きつこうとしたら、いきなりビンタされた。なんで殴られたのかわからなかったけど、福岡でバイナリキッドはキモイとかバカとか殴っても平気とかそうゆーところが強調されてて舐められてるのかな、それか単にケンカしたいのかな、と考えた。いずれにしても僕は無言でしゃんぺ〜を殴りつけた。そしてまた殴った。さらに蹴った。倒れたところをまた殴った。そして僕はしゃんぺ〜を抱きしめて言った。
「嘘だよ〜!!」


 「のーの」のライブが始まった。おじさまがピアノを弾き、女の子がへんてこなダンスしながらひとりで歌ってる。これまた素晴らしい。歌がめちゃくちゃヘンダーソン。また聴きたい。毎日聴きたい。のーのさん。これ見たらCD入手方法教えて下さい。


 とか言ってる間に僕らの番。
 楽屋でしゃんぺ〜から
「さっきのは…演出!」
と言われて、僕はしゃんぺ〜ってマジ天才だとおののいた。次は僕ら歌わなならんのに、これ以上、君の才能を見せつけんでくれ。と震えた。
 ステージで準備してる間、今日の主役「カシミールナポレオン」の10年を7分に凝縮したDVDが流れていた。僕は観ることが出来なかったが、ボギーさん曰わく「凝縮してもカスカスな10年」だったらしい。そんなモノ凄いもの見せられてるお客さんたちは僕にドン引きだろうなと思った。ボギーさんとの会話は終始意味不明だったし、ボッコボコに人を殴るし。東京の人は頭おかしいんじゃないかとか思われてたらどうしよ。ボギーさんにも悪いし田口さんにも申し訳ないし。ごめん、もう全部夢でさ、目が覚めたら、実はヒロポがかわいい女子校生だったらどんなにかいいだろうかと……。あーあ……。






 演奏が終わって、ミシガンと僕は苦笑いしあった。僕たちの演奏を観て、
「かっこいー!」
と言った人がいた。
 僕たちがやりたい放題作ったCD『母さん、なんでウチにはファミコンないの?』が売れた。バイナリが5人になって初めて出した音源が入ったコンピ『東京ゲリラ』も買ってくれた人がいた。どんなバンドでも、ライブ観てからCD聴くとガッカリすることがあるけど、バイナリのCDはそんな事ないと思ってる。すげぇよ、マジで。


 インディーズバンドなんてかっこつけて言うのも恥ずかしいくらいのアマチュアバンドの僕たちは、ふたりでやってた時、ライブに恐ろしい程の出来、不出来があったんだけど、今は5人で真剣に前向いて、不出来がないようにがんばってるとこ。言葉なんかあんまり重要じゃない。少しくらいリズムが変でもかまうことない。今回はふたりのバイナリキッドだったけど、ちょっとすごい演奏ができてよかった。
 観てくれた人、どうもありがとうございました。
 音楽って凄いよなぁ。こんな僕でも、福岡にたくさん知り合いできたよ。




 この辺で、つづく。