成人の日おめでとう

 ハロー! こちらバイナリキッドのヒロポ。


 1月11日は成人の日だったなぁ。へぇ。どおりで。今年の成人の日、僕は自分で自分をくんくんに追い込んだり、11:11になる瞬間をじっと待つ事くらいしかしなかった。なのに気づいたら11:13になっていたりして虚しかった。あとはN君の事を考えたりしていた。


 あの頃、僕はまだ世の中の慣習に少しは合わせる気概があったわけで、きちんと成人式に出席した。せっかく一生に一度の成人式なので、市長の話や成人代表の泣きながらのスピーチなどを記念だと思いよく聴いた。当時の僕には大人になることや金の価値や命の尊さはこれっぽっちも分かっておらず、ただ単に彼らに対して薄ら寒いスピーチをするもんだな、と思った。式の内容はそんなことしか覚えてない。


 会場を出ると、小学校の頃近所に住んでいた連中がおり、僕は当時から彼らの事を苦手に思っていたので、会話もそこそこに別の場所へ移動した。その中の1人は僕の事をバカにしていたバカで、学生時代を近所だという理由で一緒に過ごしていたのだが、ある時から体育教師になるんだと息巻いていた。時は経ち現在は工員として頑張っていると風の噂で聞いた。だからどうということではないけど成人式にはそのような再会もあるということで。


 高校時代の同級生YさんとN君のカップルにも会った。Yさんは美人だった。しかも地元で割と名の知れた会社の社長令嬢でもあった。N君は野球部で成人式当時も今も何をしているのか分からないが、きっと有名な大学に入り、長女であるYさんの父親の会社を継ぐために中途入社して幹部コースをばく進している事だろう。きっとそうだ。そうに決まってる。そういう人間で構成されていた高校だったから、僕は全く馴染めなかったのだと思う。


 そうこうして、N君に会った。野球部だったN君とは別の、ラグビー部だったN君と。2年ぶりに会った。すると出し抜けに彼が
「これから高校の同窓会があるけど工藤もいかないか」
と僕を集まりに誘ってきたのだ。


 僕が通っていた高校は文武両道を掲げており県内でずいぶん人気がある高校だった。僕はこれでも高校受験を頑張った口で、合格した時はうれしかった。その高校はラグビー部が強いのが売りで、国立大学の進学率がずば抜けて高い地方の進学校だった。実際の所ラグビー部はラグビーを生活の中心にしており、進学の際は進路相談教諭がスポーツ推薦で私立大学に押し込んでいた。また、国立大学に進学するような者は掃除時間中も英単語帳を開いて勉強に励み、真面目に掃除をする僕をおかしがるような者だった。勉強ができるか、スポーツができるか。どちらにもなれないまま高校3年生に進学した僕は私立文系コースの教室でひたすら文庫本を読んだり昼寝をして過ごしていた。同じクラスだったN君はラグビー部の仲間とそれなりに楽しく過ごしていたように見えた。同じ教室に居ながら、相容れぬ関係だった。


 けれど、僕は彼にどこか親近感を持っていた。彼はラグビー部だがレギュラーというわけでもない。顔が良いわけでもない。かといって勉強が出来るわけでもない。しかしくだらない事はよく知っている。時々それを鼻にかけるくらいのプライドは見せる。


 ある時、彼が珍しく3日ばかり連続して学校を休んだ事があった。僕は母が冷蔵庫にマグネットで貼ってあったクラスの連絡網をはがし、N君の自宅に電話をかけた。


「工藤、どうしたん?」


「いや、N君こそどうしたのかなと思って」


「ハハハ大丈夫だけど」


 電話したものの、特に会話は続かず、程なくして受話器を置いた。彼にしてみれば特に親しくもない僕からの突然の電話に驚いた事だろう。一体何を僕はしたかったのだろうか。あの時、僕はこう思っていた、と思う。


もしかしたら、N君は仲間かもしれない。
あっち側ではなく、こっち側の人かもしれない。


 2010年になって、過去を振り返って、そう思う。実際確かなのは、あの時単純に彼の体調が心配だった。しかし、どこかラグビー部の連中や進学校の気質に付き合いきれない、といった雰囲気も感じとれた。


「君さ、学校楽しいかい」

 もしもあの時電話でそう聞けていたなら、僕とN君の関係はどうなっていただろうか。しかしそんな事聞けるはずもなかった。それ程、学校の中の序列化は進んでいる頃だった。見えない壁のようなものが、僕を臆病者にしていた。


「同窓会? なんでそんなもの行くの?」


 成人式の時に口をついて出た僕の返答はこんなに酷いものだった。本当に、シンプルな疑問だったのだ。同窓会なんて、君は楽しいのかい? と。同窓会なんか行くわけない。行っても居場所などないし。会いたい人はいないし、会いたくない人ばかりだし。同窓会が楽しいものと理解できなかったんだ。
 でもN君、誘ってくれた事、今やっと、結構うれしく思ってる。


 えっと、成人の日には書き終わらなくて今頃かだけど書き終わり。つまり、えと、何が言いたいかっていうと、


「新成人おめでとう!」

ってこと。


 あー、こんな風にはなるなよ!!