水しかない

 僕たちドタマカチワルドはみんなご近所さん。東京の杉並区というところに住んでいる。バンドやってる人がたくさん住んでいて楽しいところ。


 ドラムのミシガンちはうちから線路沿いに歩いて10分くらい。ボーカルのぐが住んでるのはうちからちょっと行った通りをはさんですぐ。間に僕が住んでる。だから結構うちで遊んでることが多い。こないだも、出かける前にみんなうちに一度集まった。


 僕は、ふたりの客人に水をあげた。
 水道水だ。


 井上陽水の初期の歌で『御免』という歌があるんだけどふたりは知らないに違いない。
 お客さんが家に来たのだが、奥さんが里に帰っていて「目玉焼きでもつくりましょうか」と言ってみたり、さらにテレビも調子悪くて・・・・・・御免。という内容。歌い出しは


「なんにもないけれど 水でもどうです せっかく来たのに なんにもないので ・・・・・・御免」

 僕はその歌をふと思い出して、ふたりに水道水をコップに入れて渡した。遠慮せずに、飲めよ、と。
 僕は普段この水を富士山の雪解け水だと思いながらいつも飲んでいるが、ふたりにとってはただの水道水。


  これは昨日、ぐが僕に教えてくれたんだけど、ミシガンが、


「水道水っていいよな! ひとんちで出されても遠慮せず残せる」


 僕が聞いていない間にこんなことを言っていたらしい。
 あいつ・・・・・・!!!!!!



 「うちの水は富士山の雪解け水なんだ!」


 よっぽど言い返そうと思ったけど、ぐには「はっか油を水にたらして、それで体を拭くと涼しくなるらしい」という、まとめサイトで知った情報を教えてあげた。ぐの家、めちゃ暑いから。そしたらこんなこともぐは教えてくれた。


 こないだぐがこんにゃく出しっぱなしにして出かけたんだって。
 その日も暑かったんだって。
 家に帰ったら、なんとこんにゃくが溶けてたって!


 だから思った。
 今度から水道水はやめる。
 ミシガンには溶かしたこんにゃくを振舞う!


 ・・・・・・御免。